第16回 最速はあくまで結果的

 今回は社民党政権下で行われた事業仕分けの中、蓮舫議員がスーパーコンピュータ開発のことで「何で一番でなくてはならないのか?二番ではなぜいけないのか?」との質問をされたことについて触れて見ようと思っています。

 いやはや、この発言には驚かされました。小生、党のことはさておき、蓮舫氏には好感を持っていたのですが、この真理を弁えぬ質問には唖然としました。資源の乏しい日本の将来の国力、しいては世界の科学技術を左右する問題に対して、言葉上の綾を屁理屈で突いているようにも思えたからです。おそらく蓮舫氏は「莫大な予算の削減」のために、ついつい出てしまった言葉だとは思いますが、あの事業仕分けの場で、あの発言はあまりにも無知蒙昧で不見識と言わざるを得ない言葉でした。

 世界最速と言われるコンピュータを作っている人々は「一番速いコンピュータ」を目指しているのではなく「より小さくより速い演算を行うコンピュータ」を目指しているのであって、その結果が一番であったり二番目や三番目に甘んじる結果になっただけなのです。利根川進氏は「世界1位を目指さなければ2位にも3位にもなれない」と反論されておられましたが至極当然で、利根川進氏のご真意は「世界1位」ではなく「より小さくより速い」と解釈すべきなのです。
 この件について、どのチャンネルのどの番組かは忘れましたが「蓮舫氏は文系だから・・・」との発言が有りましたが、どうもこの方も良く分かっておられないようで、何も文系・理系に関わる問題では無いことなのです。

 世界で二番目や三番目の演算スピードのコンピュータを目指すことは、実は一番早い演算スピードのコンピュータを目指すことより、ある意味では難しいのです。確実に二番目のコンピュータを作る為には、一番早いコンピュータを作る人にしかできません。これは当然の論理として「二番目に早い演算スピード」のコンピュータを作るには一番早い演算スピードのコンピュータの設計理論を分かっていなくてはならないからです。分からないからこそ日々の研究におて独自の理論を構築しながら「より早い演算を行うコンピュータ」を目指しているのです。「二番や三番でいいや」と思っている開発者は、すでにその段階において「演算速度競争から降りた」に等しいのです。

 例えば、陸上競技の100メートル走で、いつも8秒で駆け抜けることが出来る選手がいたとしましょう。この選手にとって二位を目指すことは簡単ですよね。一位の選手のすぐ後ろを走れば良いのですから。これは今一位で走っている選手の走りが分かっているからこそ出来ることですよね。しかし、100メートルを8秒で駆け抜ける選手はいませんので、未だに9秒台の争いをしています。ウサインボルト選手は速かったですね。彼ならおそらく確実に二位を狙うことがでると思います。
 コンピュータもこの理論と全く同じなのです。日本が一番になれば他国の研究者も「もっと早いコンピュータ」を目指します。他国が早いコンピュータを作れば、日本の研究者も「もっと速いコンピュータ」を目指します。その切磋琢磨の競争が有るからこそ、世界のコンピュータの演算速度の底上げがなされて、小さな家電製品にまでコンピュータが入るようになって来たのです。もしこれらの全ての技術などが日本で開発されず、全て他国のロイヤリティーを購入して製造されていたとするなら、日本の製品はもっと高価なものとなっていたはずです。資源の少ない日本であるからこそ、このような科学技術大国を目指さねばならないのではないのでしょうか。

 蓮舫氏!貴女はコンピュータを利用しているものを使ったことは無いのですか?
 携帯電話はお使いでは無いのですか?
 移動の時に電車や自動車を使ったことは無いのですか?
 ご飯を炊く時に電気釜はお使いにならないのですか?
 これらは全てコンピュータ制御されており「一番早いコンピュータ」を作れる日本の、もしくは世界の高度な技術向上が有ったからこそ開発出来たのですよ!
 蓮舫氏!貴女は携帯電話を使う時、コンピュータを使っていると思っていますか?
 そうではないですよね。電話を使っていると思っていますよね。しかし実際には遠くの人と話せるコンピュータを使っているのですよ!そして貴女の携帯電話に電波が届くまでには膨大な演算がなされるコンピュータを経由しているのです。

 コンピュータの理想型は、誰でもがそれをコンピュータとは知らずに使えることです。それにはコンピュータとのインターフェースが現在のようなキーボードやマウスを使うようなものから脱却しなくてはなりません。最近発売されたiPadを見ると、モニターとキーボードとマウスからなる従来の3点セット型からかマウスは無くなり進歩しているのですが、文字の入力に関しては画面のキーボードからの入力が必要です。しかし自動車や電気釜などは、すでにコンピュータで制御されています。現在でもすでに音声認識や触覚認識、ポーズ認識などのコンタクト方法が存在していますが、今後は認識装置やCPU、メモリ、記憶チップなどがよりコンパクト化され、集積化がなされ、それが統合された時、始めて「2001年宇宙の旅」のHALのようなコンピュータができるはずです。もっともHALはディスカバリーの乗員たちに旅の目的を隠すため嘘をつかなければならなく、その為に狂ってしまったのですが・・・(この「2001年宇宙の旅」の解釈については、様々なご意見をお持ちの方が多くおられることも承知していますし、そこに踏み込むと切りが有りませんのでノベライスに準じたものとしました)。

 この「2001年宇宙の旅」のHALは少なくとも「嘘」という概念は持っていたのですから「人の脳」にかなり近かったのでしょうが、その為に狂ってしまったのですから「人の脳」のようになるには、まだまだ発展途上段階だったのですね。人間であれば、幼稚園の子供でも平気で嘘を付けますから・・・。
 もっとも、今使っているコンピュータに「嘘」をつかれないからこそ安心して使って居られるのであって、長時間かけて作ったデータを保存した時「な~んちゃって!本当は保存してなかったんだよ!」なんていうようなメッセージが出てきてしまったら、目も当てられませんよね。「嘘も方便」を理解したり、詐欺を働いたり、言い訳をしたり、屁理屈を言ったりと、そんなコンピュータが出来たら、人とコンピュータの差は無くなります。小生は、将来冗談を言いながらも楽しく会話のできる美人の介護ロボットに世話をしてもらうのが理想的だと思いますが・・・・。

 より速い演算を行うスーパーコンピュータは、現在では多くの電力とスペースを必要とします。そこでより集積化されたICチップなどの研究や開発が行われ、必然的に省エネルギーと省スペース化が進み「より小さく、より速く」が追求されて、それが一般市場に反映された結果が今の社会の根幹を維持しているのです。
 小生は本業のグラフィックデザインでMacintoshを使用していますが、Macintoshを一番始めに導入したのが1989年ですので21年前のことです。銀行からの融資を受けて、本体とモニター、プリンター、40MBのハードディスク(幅20cm×高さ7cm×奥行き28cm)のセットを300万円で購入しました。価格も相当に高かったのですが、それはさておき、演算速度たるや、今では考えられないくらい遅いものだったのです。当時は1枚の写真の修正に、うっかりすると半日以上の時間を費やさねばなりませんでした。今振り返ると「よくもあんな機械で仕事をしていたよな」との思いがあります。
 保存媒体もMOが発売前でしたので、フロッピーディスクが標準で1.4メガバイトしか保存出来ませんでしたので、いざ出力センターにデータを渡す時に苦慮したことも有ったのです。それがこの20年、特にここ10年間のコンピュータの演算速度と言ったら、目を日張るものがあります。本体の大きさは変わっていませんがCPUの演算速度は150倍以上。モニターは画面が大きく、奥行きは10分の1以下、ハードディスクも二回りから三回りも小さくなり、持ち歩ける大きさになりました。保存媒体に至っては幅62mm×高さ17.4mm×奥行き8.4mmの手のひらに乗るUSBメモリーが16ギガバイトの容量にもなっています。これは1.4メガバイトのフロッピーディスクの11428枚分に当たり、フロッピーディスクを平積みすると約400メートルの高さにもなります。ちなみに今回のこの文章の容量は約45キロバイトですので、16ギガバイトのUSBメモリーには365,696回分が収納でき、サボらずに毎月掲載して行っても3万475年もかかることになってしまいます。

 行政刷新会議の事業仕分けで事実上の「凍結」と判定された「次世代スーパーコンピューター」の発表には、本当にがっかりさせられました。今まではともかくとして、来年度の概算要求はたかだか267億円ですよ。おそらくこれからも投じられるであろう、殆ど車の通らない高速道路に何千億円も投じてきていながら、日本の政治家の頭の中はいったいどうなっているのでしょうか? 小生に言わせれば、2001年宇宙の旅」のHALが人としたら「無駄と未来への投資」の区別もできぬ日本の政治家の頭は100円ショップで売っている計算機程度です。もっとも100円ショップで売っている計算機。√の計算もできるのですから政治家の頭と比べるたら「100円ショップの計算機」に失礼になってしまいます。
 
 もう一つ例え話しをします。
 ある学者が独創的な発想で「省エネで世界最速のコンピュータが出来る!」との理論を構築してスーパーコンピュータの開発を始めたいと思いました。それには莫大な開発費がかかりますので国に支援を要請します。国もその可能性を認め支援することに決めたとします(今の民主党政権下では決して認めないでしょうね)。そして出来上がったスーパーコンピュータは思ったよりも速度が出ずに世界三位に甘んじることになってしまいました。
ここで蓮舫氏だったら何と言いますかね?
 1.あれだけの予算を使って三位じゃ駄目じゃない!・・・?
 2.三位で良いのよ!・・・?
 3.最初からそんな多額な予算を使っての開発は認めるべきではなかった!・・・?
 4.これからも支援するから一位を目指しなさい!・・・?
それでは、もし一位になった時には何と言いますかね?
 1.あれだけの予算を使っただけあって良くやったじゃない!・・・?
 2.別に一位になったからと言ってそこに価値が有るの?・・・?
 3.最初からそんな多額な予算を使っての開発は認めるべきではなかった!・・・?
 4.これからも支援するから一位を維持するように目指しなさい!・・・?
事業仕分けの時の発言を鑑みる時、答えは必然と分かっていますから・・・。

 もし小生が文部科学省の大臣であったなら、一位であっても三位の場合でも間違いなく4.の答えをします。独創的な発想にこそ未来が有るのであって、例え三位の場合でも、少しの改良で一位になる可能性を秘めており、一位を維持することができれば、それはいずれ世界標準になってくるからです。そこにこそ日本の未来が有るのではないでしょうか。次世代を担う子供の育成にかかる予算と共に、未来を見据えた予算を平気で切り捨ててしまう政治家いるかぎり、またそのような政党が権力を握って居る限り日本の将来は無いものと思わざるを得ません。

 それでは、過去に世界一や日本一になった全ての事柄が「一番を目指していなかったのか?」と言われると、そうとは決して言えません。スカイツリータワーは明らかに東洋一番(独立塔としては世界一)を目指して予定の高さを610メートルから634メートルにかさ上げしましたね。たしかどこかの国でスカイツリータワーより少し高い塔の建設が発表されたために急遽かさ上げされたらしいのですが、小生はこの発表に驚きました。それは「一番を目指した」のに驚いたのではなく、急遽24メートルもかさ上げできる元々の設計であったことに驚いたのです。そこには世界一と言われる日本の建設技術があり、そしてその建設技術を支えるコンピュータが有ったからこそ出来たのです。

 ここまで蓮舫氏をやり玉に挙げるような書き方をしてきましたが、小生、蓮舫氏を悪人扱いしようと思って言っているのでは無いことを改めて記しておきます。たまたま「事業仕分け」の中で蓮舫氏がこのような発言をされたための反論であって、これは今の政治家の皆に向けた意見なのです。
 当然政治家であれば大所高所からの視点が必要です。そして大所高所からの視点には、物事の神髄を見極める目が必要なのです。その政治家が机上の空論を振り回して、重箱の隅をつつくような論理を言ってはいけません。
 そして平沼赳夫元経済産業相の「言いたくないが、言った本人は元々日本人じゃない」との発言。阿呆としか言いようが無いですよね。後で「差別と取ってもらうと困る。日本の科学技術立国に対し、テレビ受けするセンセーショナルな政治は駄目だということ。彼女は日本国籍を取っており人種差別ではない」とわけの分からぬ言い訳をしていましたが、普通の一般人の会話では「元々日本人じゃない」なんて言い方は、故意に差別する場合を除いて絶対にしませんよ!明らかに「差別」の意識があるからこそ言ったのですよ。平沼赳夫さん!貴方は明らかに「人種差別主義者」です。もし、無知で言ったのであれば、貴方には議員になる資格も無いですね。
 まあ、こんな馬鹿な政治家の発言を上げ連ねて行くと枚挙に暇がありませんので、このくらいで止めておきますが、ご自分のお立場を弁えぬ政治家が何と多いことやら。そして発言への弁明たるや、一般常識を持っている人の耳には「屁理屈」としか聞こえないようなものです。読者諸氏!こんな政治家に日本の未来を託せると思いますか?

 コンピュータの話しはこの位にして、次回は文系の人にも分かる、その他の世界一の話しを認めようと思っております。